「コーヒーを一つください」
返事はなく、やがて投げ出すようにしてコーヒーが置かれて行く。コップの中の液体はしけの日の海のように荒れている。
「○○まで人人一枚おねがいします」
ぶっきら棒に、
「となり」
という返事。たしかに切符の窓口をまちがえたのはこちらが悪いのだけれども、もう少し親切に言えないものだろうか。
こういう応対に出くわすと、自動販売機の方がいいなと思ってしまう。おあいそを言わないことはどちらも同じだけれど、叱られないだけ、また不愉快な思いをしないだけでもいい。

PHP文庫 渡辺和子著「美しい人に」より


打ち合わせや商談で喫茶店などを利用することがある。

そんな時にドスンと置かれたグラスの音。

自分ひとりだったら「もう少し静かに置けば」と言いたいが、

相手がいれば雰囲気を壊さないように、コップのうねりを眺めながら世間話をする。

もし相手が、文句を言いたそうだったら

「もしかしたら、寝起きが悪かったのかのかもしれません」

となだめるようにするが、風太郎の気持ちはおさまらない。

コンビニで挽きたて珈琲を飲みながら、話をした方がまだいい。

と思うことがままある。